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アリスのお茶会

更新状況と雑記。そして優雅とは言えない日常の数々。

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BLEACH/日番谷夢 「彼が不在の三日間 参」の後日談です。
続きからご覧下さいませ。


 手をつないでくれるのも、わがままを聞いてくれるのも、とても不本意な理由からだと知っている。
 だから、
 嬉しいけれど、憎らしいのも本当のこと。





「この沈丁花、どうしたんだ?」

 文机の上に置かれた一輪挿しに一枝の沈丁花を見つけて、日番谷がそう聞いた。
 この邸の庭にも沈丁花はあるが、少女が今までその花枝を飾った事などない。
 少女の脳裏に一昨日の夜の事が思い出された。

 ―――言っちゃいけないのは「冬獅郎と似てる」って事だから、これは言ってもいいの・・・かな?

「・・・貰った」
「―――その間はなんだ?」

 一秒にも満たない逡巡であったのに、日番谷は不可解そうに問い返した。
 どうしていつも気付かれるのだろう、と少女は不思議に思う。
 少女のことで日番谷にわからない事などないのではないか、そう思う。
 足りない言葉や態度を、きちんと見つけてくれる。

 ―――たったひとつの想いにだけ、気付かないのだけれど。

 そんな思考に捕われていると、少年の溜息が落とされた。

「違うこと考えてるだろ」
「そう、かな?」
「そうだろ。もういいから、酔いが醒めてるなら風呂に入ってこい」

 こくりと頷けば日番谷に髪を撫でられた。

 ―――ほら、やっぱり。子ども扱いする。

 その優しさは、手のかかる妹に対するものだ。髪を撫でる手は大好きだから、何も言わないけれど。





 風呂上がりに、入れ違いで風呂に入る日番谷から「ちゃんと髪を乾かせよ」と言われるのは、少女にとって日課のようなもの。
 それに対して素直に頷く少女に、呆れた表情で「お前のそれは、あてにならねーんだよ」と少年が返すのも。

 今日も今日とて。

「先に髪を乾かせよ」

 後ろからかけられた日番谷の声に、生返事を返して読んでいた頁を捲った。
 そうすれば、諦めた少年が溜息をつきながら、長い髪を乾かしてくれる事を少女は知っている。
 はたして、頭を撫でるのと同じ優しい手つきで髪を乾かしてくれる日番谷に、本を読みながら口元が緩むのがわかった。
 妹扱いされているのだと承知しているが、少年の手を独り占めできる貴重な機会を逃さない程度には、少女はしたたかではある。
 そんな時、背後で盛大な溜息が吐かれた。

「幸せが逃げるよ」
「誰のせいだ」

 あと少しで読み終わる本をぱたんと閉じる。

「私?」
「・・・別にお前のせいじゃない」

 くるりと振り返って翡翠の瞳を見つめると、日番谷は眉を寄せて困ったような顔をした。
 何故そんな表情を見せるのかがわからず、首を傾げる。

「もう寝るぞ」

 日番谷が立ち上がったので、少女は慌てて読んでいた本を片付けた。
 本を片付けた折にかすめた沈丁花の香りに、一瞬気をとられていると。

「一緒に寝るのは、今夜だけだからな」
「・・・・・・・・・」
「おい、返事は」
「うん。(しばらくは我慢するから)今夜だけ」
「―――なにか別の含みがなかったか?」

 ふるふると首を振る。
 そして日番谷の布団の端でちょこんと待つ。

「ほら、早く入れ」

 滑り込んだ布団は、昨夜と同じように日番谷の香の匂いがする。
 でも昨夜と違うのは、近くに大好きな温もりがあるからだ。
 無意識に日番谷の胸もとに擦り寄ると、少年の溜息が聞こえた。

「また」
「・・・お前がいつまでも甘えただからだろ」
「直んないよ」

 くすくすと笑っていると、日番谷の香が強くなった。
 躊躇いがちに抱きしめる日番谷に応えるように、少女もその背に腕を回す。
 まどろむ意識をさらに加速させるように、日番谷の規則正しい鼓動が眠りへと誘う。
 眠りの淵に沈みながら、少女は思った。

 ―――少しくらいどきどきしてくれたっていいのに・・・。



 日番谷の腕の中で安らかに眠る少女は、その後の事を知らない。
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